7月27日 どようび
時間とお金、どっちが大切・・・

   

※ 微妙にネタバレを含んでいるので、気になる方は「戻る」ボタンをポチッとな。


「さてさて、今回もはりきって漫画レビューいきましょう♪」
「パチパチパチ。」
「ちなみに今回紹介する漫画が、レビューを始めて記念すべき10作目の作品となります。」
「今回の『ガラスの城の記録』もそうだけど、何気に手塚治虫作品多いよね?」
「そうなんです。実は、手塚治虫大好きなんですよ。」
「その割りには、『火の鳥』とか『ブラックジャック』とか、有名な作品は少ないね。」
「そ、それは、マイナーな作品にもスポットを当てようと・・・」
「文章力で勝てないから?」
「うっ・・・」
「この程度の文章力だと、他のレビューサイトとは勝負にもならないから、あえて競合の少ない作品選んでるってことでしょ。」



「わ、わかりますよ、言いたいことは!!

 なんで絶対失敗しない手頃な夢だけを選ぶのかってことでしょ!?


 結果を出せないこととは、チャレンジするよりダメなことかってことでしょ!?


 どうせやるのなら1位を狙えってことでしょ!?


 高嶺の林檎よってことでしょ!?」



「いいこと言ってるようで、NMBの曲をがっつり歌いやがった・・・」
「いいんですよ、どうせ誰もこのサイト見てないんだから・・・(/_<)」
「ヲタのくせに、曲には影響されないんだ。」
「ヲタはヲタでも、ちゃんと現実の自分と向き合えるヲタなんで。」
「そんな悲し過ぎるセリフを、ドヤ顔で言われても・・・」
「そんなヲタがお送りする渾身のレビュー、とくとご賞味あれ。」
「あれ。」





手塚治虫 『ガラスの城の記録』 全巻



『ガラスの城の記録』

作画 : 手塚治虫 (『現代コミック』『COMコミック』掲載)


今から45年前。
1970年1月22日発売の『現代コミック』(創刊号)で連載がスタートされた。
当時、低迷期にあった手塚治虫が生み出した傑作SF漫画である。

まず始めに断っておきますが、この漫画は未刊のまま終了となっています。

『現代コミック』の創刊号より連載がスタートするも、わずか3ヶ月で休刊。
その後『COMコミック』に掲載誌を移したが、それも2ヶ月後にあえなく廃刊。
そして、そのまま連載終了となってしまった不遇の作品なのである。

事実上の最終話にあたる連載回は、明らかにこの先の展開を見越した終わり方をしており
この作品を読み終わって、改めてこの物語の壮大さを感じさせられる。

手塚治虫の未刊の作品は数多く存在しており、それらどの作品も名作と呼ばれるものばかりだが
この『ガラスの城の記録』も、未刊の名作と呼ぶのに相応しい作品と断言してもいい。

そう言っても過言ではないほど
この作品が放つ独特な世界観からは名作の匂いしかしない。





札貫家 通称「ガラス屋敷」   


――― 物語の舞台は1992年。
兵庫県西宮市生瀬町に住む、札貫(ふだぬき)一家が巻き起こした
悲し過ぎる悲劇の物語である。

この漫画の連載がスタートしたのは1970年。
作中では、その22年後の1992年という近未来が描かれている。

手塚治虫が思い描いていた、この1992年には
現代においても、未だ成立していない2つの法律が成立している。

その2つの法律を軸として、物語は展開されていくのである。




ガラスの城の記録 『冷凍睡眠禁止法』
ガラス屋敷の地下の秘密


@ 冷凍睡眠禁止法

人々から「ガラスの屋敷」と呼ばれる札貫家の地下にある冷凍室には
管理役を任されている四男『札貫四郎』を始めとした数人を残した札貫一族が
ある特殊なケースの中で眠っている。

それが、冷凍睡眠。

冷凍睡眠している間、人は歳をとらない。
そのため、睡眠している側と、していないと側では実際の年齢との誤差が生じる。

つまりは、親子ほどに歳の離れた兄弟や、親よりも歳上の娘が誕生するのである。


      

まず、この発想が凄い。
そして、この奇妙な設定を、絶妙な表情や台詞回しで表現しきっていることが、さらに凄い。

先ほども述べたが、この作品が連載されていた当時の手塚治虫に対する世間の評価は
「古いタイプの漫画家」という認識であったそうだ。

「時代は変わったんだ!オールドタイプは失せろ!!」

そう蔑んでいた当時の人々に言ってやりたい。
彼が古いタイプだったのではなく、時代の先を行き過ぎていた漫画家だったのだと。
そして、「恥を知れ、俗物!」と。




ガラスの城の記録 『札貫札蔵』
札貫家当主、札貫札蔵


まだまだ漫画が「娯楽」でしかなかったこの時代において
単なる「娯楽」という枠には収まらなかったこの作品からは、いくつかのメッセージが投げかけられている。
その1つが、『冷凍睡眠禁止法』から投げかけられている、このメッセージ。


――時間とお金、どちらが大切か。


この冷凍睡眠中は食事を必要とせず、さらには歳もとる事なく、ただただ時間が過ぎていく。
そのため、「お金を使わず、時間が消費できる。」という利点に着目した札貫札蔵
自身が稼いだ財産は「時を過ごす事で利子を生み、そしてその利子はまた新しい利子を生む」と考え、実行に移している。

「今」この時を大切にするか、「未来」に手にするお金を大切にするか。
この『時間とお金論争』は、45年が経過した現代においても答えの出ない永遠のテーマとなっており
今回の札貫札蔵が起こした行動は、人間臭くて、個人的には共感がもてなくもない。

まぁ、鉄板の上で土下座をした経歴を持つある人物は
「金は命より重い」と、はっきりと言い切って、話題になったりもしましたけど。


さて、話を戻そう。
この冷凍睡眠が法律で禁止されているには理由がある。

戸籍偽装の防止や、税金逃れの防止と世間的には発表されているが
禁止しなければならないホントの理由は別にある・・・





人は人でいられなくなる。


犯罪や殺人をなんのためらいもなく
平気でやってのけられるよう、社会人としての人間性を失う。

冷凍保存という、神をも恐れぬこの行為の代償として
人格が破壊されてしまうのである。

このあたりからラストまでの、怒涛の展開のオンパレードは
『鉄腕アトム』『ジャングル大帝レオ』などの少年向け漫画とは全く異なり
人間の心の中にある「闇」を描いた、手塚治虫のもう一つの顔を垣間見ることができる。

自分の目的のために、家族に手をかけたり、相手の弱みを握るために行われる近親相姦など
タブーとされている行為をあえて物語のテーマとする事で
モラルとタブーの狭間で化学反応が起こりすぎて、とんでもない事になってしまっている。

そしてその化学反応は、この冷凍睡眠禁止法だけによってもたらされるのではなく
この時代に成立しているもう一つの法律によって、さら加速度を増してしまっている。




ガラスの城の記録 『殺人法』
禁断の法律、殺人法

A 殺人法

戦争が世の中からなくなった代わりに、人々には他人を殺したがるという欲求不満が残ってしまった。
そこで政府が打ち出した法律は、死刑囚に対して、刑務所が死刑を執行するのではなく
死刑囚を世間に出しそれを誰でもいいから殺すことが出来るという法律である。


   ガラスの城の記録 『殺人法』


怖すぎる・・・


手塚先生、これはさすがに怖すぎでしょ (((((( ;゚Д゚))))))
『人間てんぷら』にしろ『鳥人体系』にしろ、手塚治虫が描く青年向けの漫画には
強烈なトラウマを植え付けてくれるシーンが多すぎるってばよ。

人間が人間を「狩る」という図式が、これ程までに恐ろしいものなのかと
トラウマになるほど、思い知らされましたよ、ホント・・・


ちなみに、世間に放たれた死刑囚は、そこで10年生き延びることができれば
その罪が時効となるという法律も同時に成立しているもんだから・・・




人を呪わば、穴二つ
世界の成れの果て


人と人とが憎みあい、人と人とが殺しあう。


「人を呪わば、穴二つ」
つまりは、人に害を与えようとすれば、やがて自分も害を受けるようになる、ということわざであるが
秩序が失われた世界とは、こうも悲しいものなのか。


ネタバレになってしまうので細かい事は割愛するが
「”ぷりーく”シタイ。」という謎のセリフを繰り返す、冷凍睡眠から目覚めた少女『ヒルン』を巻き込み
世界からはさらに秩序が失われていくのである。


これらのように、壮大なテーマを扱っている作品であるため、読者としては
息つく暇もなく、最後まで重たい気持ちで読まなければいけないのかと問われると、実はそうではない。



     ガラスの城の記録 『真理』
         四郎の娘、真理

これや、手塚治虫作品には、これがあるんや。

なぜだろう、45年も前の作品なのに
この圧倒的なエロスは? そして手塚治虫の描く女性は、なぜこうもエロスを感じるんだ!?

ってか、何でこの時代にTバック履いてんだ!!

ウィキペディア先生によると、ファッション・デザイナーの『ルディ・ガーンライヒ』
世界初のTバック水着を発表したのが1974年。
それが1977年に、ブラジルのビーチで大ブームになったことで一般化したとされている。

そんな『Tバック史』に、完全に抗うかのごとく
1970年に発表した自身の漫画で、すでに下着として実用化して描いた手塚治虫は
やはり、時代の先を行き過ぎていた漫画家と言えるだろう。


そんな狂気とエロスを兼ね備えた、この『ガラスの城の記録』。
確かに読み手を選ぶ作品ではあるが、機会があるならば読んで損はない傑作である。


ちなみに『秋田文庫版』には、最後の章が収録されていないので
これから読もうと思っている方には、『手塚治虫 漫画全集版』を読むことをお勧めする。







「さて、いかがだったでしょうか、結構頑張って文章打ってみたんですが。」
「レビューっていうか、ただストーリーを紹介してるだけじゃん。」
「うぐぅ・・・」
「同じような表現の繰り返してるだけだし、ちょっとクドかったかな。」
「わふー」
「次回作はもっと頑張るように。」
「ガッデム!あたいに触ると痺れるぜ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「そういえば、この漫画のテーマの1つとなっている『時間とお金どっちが大切か』ってトコなんだけど。」
「はい。」
「雪ちゃん的には、どっちが大切だと思ってるの?」
「自分の場合は、お金ですかね。」
「へぇー、それは何で?」
「こんな人生をダラダラ送ってても、苦痛なだけですから・・・」
「あぁ・・・」
「というか、お金とかも別になくていいから、早く時間が過ぎないかなって、毎日思ってます・・・」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「そんな思いを込めて作成しましたので、よろしければ楽しんでいって下さい・・・」
「ただでさえ重たいテーマの作品なのに、余計ヘビーな気持ちになったよ・・・」



▲Page TOP


BACK 過去の懺悔 TOP NEXT


HOME

Copyright © 2005 Yukina. All Rights Reserved.