『男どアホウ甲子園』

                

※ 結構なネタバレを含んでいるので、気になる方は「戻る」ボタンをポチッとな。



後に国民的野球漫画と称される『ドカベン』の連載が開始される2年前。
アポロ13号が打ち上げられた年と同じ1970年から、『週刊少年サンデー』で連載がスタートした
知る人ぞ知る水島新司、最初の大ヒット野球漫画。

それが・・・




『男どアホウ甲子園』 全巻


『男どアホウ甲子園』
原作 : 佐々木守 / 作画 : 水島新司 (全28巻)

本作の主人公の名前は、藤村甲子園(ふじむらこうしえん)。

実家が甲子園球場の正面にあるという事もあって
野球バカの祖父が実の両親の反対を振り切ってまで名づけられた。

水島新司の最大のヒット作『ドカベン』は、この2年後の1972年から『週刊チャンピオン』で連載されるのだが
実はこの『ドカベン』は、連載が開始されてから1年半くらいは
野球をやらず柔道漫画として描かれていた真実をご存知だろうか。

その理由が、この『男どアホウ甲子園』を別誌で連載していたためと言われている。
(結局は、連載中に野球漫画に方向転換するのだが・・・)


同時期にライバル誌に連載されていた事もあってか『男どアホウ甲子園』と『ドカベン』は対極に位置している。

バッティングの天才が山田太郎であるならば
ピッチングの天才はこの藤村甲子園。

相手チームを研究し、緻密な戦略をたて、正攻法で勝利を目指すのがドカベンであるならば
どんな相手だろうとも、剛球1本のみで全てをねじ伏せるのが、この藤村甲子園である。

また、水島漫画では珍しい『魔球』『必殺打法』も入り乱れたハイテンションな試合展開や
延長45回を一人で投げ抜くといった、常人離れした試合が描かれたりする事などからも
リアリティを追求する『ドカベン』とは、正反対である事が理解していだけるかと思います。




男どアホウ甲子園 『藤村甲子園』
剛球一直線、藤村甲子園


そんな藤村甲子園の人生は、決して平坦ではなかった。


【中学3年生】
野球の名門校「明和学園」に、スポーツ推薦で入学が内定していたが
卒業を記念した野球部の紅白戦で乱闘騒ぎを起こしたことで、まさかの内定取り消し。

壮絶に頭が悪いため、唯一入学が可能だった「南波高校」へ入学を果たすも
野球部は、荒くれ者たちの溜まり場となっており、実質的な活動は行われていないという事実を知る・・・


【高校1年生】
廃部寸前の名ばかり野球部で、一人ずつ仲間を集めていく。
素人同然のメンバーたちと汗を流し、甲子園出場を目指していくストーリーは
まさに『ルーキーズ』そのもの。読み進めていくうちに熱くなること必死。

しかし、仲間を集めて試合に挑み、地区予選決勝戦まで勝ち進むも
右翼や暴力団の陰謀に巻き込まれ、目前で甲子園出場を阻まれてしまう。

「しまいや・・・、こ・・・これで、しまいや・・・。」


【高校2年生】
地区予選大会を悲願の優勝で締めくくり、念願の甲子園に初出場を果たすも
今度は学校側の陰謀により、強制的に出場を辞退させられ1回戦不戦敗。

その後、学校側から追い出される形となった野球部ナインは
来るべき日に備えて、野球武者修行と称し、無宿で食料も持たずに全国行脚を行い
手当たりしだい、野球チームに対戦を挑み続ける日々を送る。

「わしらが勝ったら、今日1日の一宿一飯にあずかりたい。」


【高校3年生】
そして、3度目の正直で、遂に甲子園の舞台で
全国のライバル達と熱戦を繰り広げていくのである。

『ドカベン』明訓高校は、1年の夏から3年の夏までの全て甲子園に出場しており
弁慶高校に敗れた以外、一度も負けていない華々しい戦績とは対極に位置する南波高校は
ただひたすらに泥臭く、ただひたすらに真っ直ぐで
ようやく掴み取った勝利には、『ドカベン』とは違ったドラマがあり、熱さがあります。


それでは、そんな高校野球編を盛り上げる
熱すぎて、ぶっとんだ愛すべきどアホウ達を紹介してきましょう。




男どアホウ甲子園 『南波高校野球部』   男どアホウ甲子園 『剛球仮面』
藤村甲子園と愉快な仲間たち


● 丹波 左文字 / 南波高校
左投左打の一塁手。必殺技は「居合い抜き打法」

阿倍野西高のエース天王寺三郎のスピードボールを打ち崩すため
数十匹のツバメを捕まえて袋詰めにし、そこから1羽ずつ放ち、それをバットで打ち落とすという
狂気としか思えない特訓を平然とやってのける、隻眼・隻腕のヤクザの息子。

8歳の時に、ヤクザ同士の抗争に巻き込まれて、相手側の親分に
右目、右腕を切り落とされるという、壮絶な過去を持つ。
その影響もあってか、常に日本刀を持ち歩き、気に入らない事があれば、やたらと日本刀を抜き
相手の腕を切りたがる、狂気の塊のような男。

ただし、義理人情に厚い親分肌でもあるため、彼を慕う者は多い。
野球部引退後は、南波高校の監督となり、3年夏の甲子園出場に導く。

「おんどれ、わいの心に残っていたグラウンドの血をよびさましよった。」


● 神島 竜矢 (通称:東海の竜) / 南波高校

右投右打のショート。

暴力で国家改造を目指すという、危険思想の持ち主。
藤村甲子園との一騎打ちの際、自らのバッドに鉄パイプを仕込み、甲子園の剛球を見事に打ち砕いて見せた。
どうやって、このようなバッドを一瞬のうちに作り出したのかは最後まで謎のまま。

連載回数を重ねるにつれて、どんどん伸びていく前髪という名の触角。
全盛期の推定距離は、およそ80cm。

その触角で相手の母性をくすぐったのか、野球部部長の美人女教師、早乙女静と恋に落ちるという
男ならば一度は憧れるシュチュエーションを体現した色男。

「俺の知恵と暴力で、そんなものは木っ端微塵に叩き潰してやるぜ!!」


● 大熊 牛吉 / 南波高校
右投右打のサードで、時にはピッチャーを務める。

甲子園が入学時の野球部キャプテン。得意な武器は鎖鎌。
常にヨダレをたらしながら、プレーする姿からは「不気味」以外の形容詞が見つからない。
また、自分の実力に絶対的な自信を持ってはいるが、現実は自分の実力のなさを思い知らされる事が殆ど。
その後に発する「もろくも崩れる、この自信」という名言は、もはや彼の代名詞。

しかし、身体を張ってライナーを止めたり、特大ホームランを打つなど
要所要所で意外な輝きを放つ、憎めないキャラクター。

「わいにヒットをのぞむのはムリや・・・なぜなら・・・わいはホームランしか打てんからや!!」


● 岩風 五郎 (通称:豆タン) / 南波高校
右投右打のキャッチャー。

藤村甲子園の永遠の女房役。
ライバル校である明和高校との練習試合で、グラウンドの外に飛んでいったファールフライを捕球するべく
車道までおいかけて、トラックに跳ね飛ばされるという衝撃的展開。
それでもボールを決して落とさなかった不屈の精神は、現代の軟弱な若者たちにも見習って欲しい。

トラックに跳ね飛ばされた後遺症で、両目の視力を失ってしまうが
2年の夏の地区大会準決勝戦の阿倍野西高戦では、奇跡の決勝ホームランを放つ。

「な、なんで、目が見えへんのに涙だけがでるんでっしゃろ・・・」

余談だが、大好きな漫画『砂漠の野球部』で、マカオがマウンドに上がった際に
キャッチャーに向かって「いくでェ豆タン!!」と叫んでた意味が、今更ながらに理解できた(笑)

   砂漠の野球部 『マカオ』


● 結城 翼 / 南波高校
右投右打のセカンド。

体格は南波高校野球部で最も小さく、上背もないが
南波高校野球部で最も知能が高い頭脳派プレイヤー。一時期はキャプテンも務めた。
決して恵まれた体格ではないが、長打力のある打撃センスが魅力。

初登場時は、意味深にピアノを弾いてが、その設定が今後生かされる事はなく
その設定は、『ドカベン』に登場する殿馬一人へと受け継がれた・・・と思う(同じセカンドだし)。

「味のある字だ。今日から野球部員は3人だ。」


● 千曲 ちあき(通称:美少女)/ 南波高校
右投右打の内野手。

本作品のヒロインである「朝野あゆみ」に瓜二つの美少女キャラ。
「女なんてくだらない動物だ」と思っていたため、男装して高校生活を送っていたが
野球部に入部し、甲子園に惚れ込んでからは、女子力全開の健気なキャラクターを演じる。

美少女は甲子園の事が好きだが、甲子園はあゆみ殿一筋で見向きもしない。
そして、豆タンと、大熊は美少女に惚れているという、複雑な恋模様も演出する。

甲子園が大学2年の秋に、試合中のアクシデントで肋骨を骨折してしまい
骨折しただけなのに、意識不明の重態に陥り、生死をさ迷ってしまったため
自らの肋骨を提供し、肋骨の移植手術を行うという、人類史上類を見ない唯一無二の手術を行う。

そこまでしても、最後まで甲子園には見向きもされないという、不遇すぎる悲しき裏ヒロイン。

「でも私は・・・私の肋骨が藤村君の胸にはいっている、その事だけで満足なの・・・」


● 松葉 月夫 / 南波高校
左投右打の外野手。

生まれつき足に障害があり、まともに歩く事が出来ないため、松葉杖をつきながら外野を守るという
野球漫画史上、類を見ない唯一無二の外野手。

しかし、その根性は人並み外れており、東城大武蔵高校との決勝戦では
疲労でぶっ倒れながらも、大の字に倒れたまま外野を守りぬいた
その姿は、骨折をしながら試合に出場し続けた、鉄人衣笠祥雄を超える鉄人っぷり。
ちなみに、初登場時の名前は「松葉」ではなく「松井」だった。

「上だ、上を見ろ!!松葉!!!」


● 知覧 太郎 (ちらん たろう) / 南波高校
右投右打の外野手。

個人的に登場人物の中で、一番好きなキャラクター。
常に相手に向かっていく姿勢を崩さず、デッドボールをも恐れない強靭な肉体を持つ九州男児。

藤村甲子園の剛速球を何度も身体で受け止め、指がへし折れても試合に出続けた。
激痛で意識を失いかけながらも、逆転のホームを目指し走り続け
ホームベース手前で力尽き、チームメイトである左文字に抱えられ退場するシーンは、この漫画屈指の名シーン。
この男、熱すぎるってばよ!!

そして、丹波左文字が率いる右翼同盟の一員として、九州から南波高校に転校し
南波高校野球部、最後の9人目のメンバーとして登場するシーンには痺れた。憧れた。

「知覧太郎、特攻隊精神でがんばるですタイ。」


● 剛球仮面 / 東城大武蔵高校
右投右打の豪腕ピッチャー。必殺技は「大回転投法」

高校3年春の甲子園終了後に、突如として甲子園達の前に現れた謎のピッチャー。
大回転投法という、現代野球ではボーク以外の何者でもない超剛速球を武器に
東城大武蔵高校の一員として、南波高校と激闘を繰り広げる。

その仮面の下の正体や本名は、甲子園達はもちろんのこと
東城大武蔵のチームメイトですら知らされておらず、仲間達からも「仮面」と呼ばれ
球場の電光掲示板にも「剛球仮面」と表示される程の徹底っぷり。


「俺の名か・・・俺の名は剛球仮面とでも言っておこう・・・」


● 朝野 あゆみ (通称:あゆみ殿) / 明和高校
本作のメインヒロインであり、甲子園が恋焦がれる憧れの女性。

ヒロインでありながら、ヒロインらしい振る舞いは特になく
ただただ、周りの男達を惑わせる事に特化したキャラクター。

丹波左文字と東海の竜との抗争に巻き込まれる形となった甲子園を救うべく
腰のあたりまであった髪の毛を、断腸の思いで肩よりも短くばっさりと切るが
わずか1ヶ月で、元通りの長さまで戻っていたり

左文字の日本刀に衣服を切り裂かれ、おっぱい丸出しになってみたりするなど
随所でサービスカットを披露してくれます。

「キスぐらい外国へ行ったら、子どもでもしてるわ。」


まだまだ挙げればキリがないほど、全ての登場人物がどアホウの愛すべき野球バカたちなのである。


そんなキャラクター達が織り成すドラマが、面白くならないわけがない!!

そして、このテンションを保ったまま
物語の舞台は、高校野球から大学野球、そしてプロ野球へと展開されていきます。




男どアホウ甲子園 『藤村甲子園』
東京大学野球部でも吼える、藤村甲子園


高校を卒業した藤村甲子園は、その後大学には進学せずに、プロ入りを志願し
意中の阪神タイガースのドラフト指名を待つが、阪神からは指名されず
巨人から指名された事で、プロ入りを拒否して大学進学の道を進むこととなる。

父親の仕事の都合により、大阪から東京に引っ越す事となった甲子園は
東京六大学で最も野球が弱いという理由で、最も合格率が低い東京大学の受験を決心するのだが
先ほども述べた通り、壮絶な程に頭が悪いため、天下の東大にまともに受験して受かることがない事を悟る。

そこで、南波野球部全員で考え出した東大合格の必勝法。
それが・・・

カンニングじゃ!!


とは言え、試験範囲が膨大である東大の試験を1人でフォローする事は無理だと悟った南波高校ナインは
1人一教科ずつを全力で暗記することで、メンバー全員で合格を目指すという結論に辿り着く。

しかし、今度はその暗記した答えを、どうやって甲子園に伝えるかという最大の難関にぶち当たる。
絶望的な空気でしばらく悩んでいると、頼れる男、丹波左門字が口を開く・・・

普通のカンニングじゃ試験官に感づかれる。しかし我々には絶対他人には感づかれない方法がある。
それが・・・


ブロックサインじゃ!!



   こやつ正気か?


そんな常人には理解し難い必勝法を駆使して、何事も無かったかのように東大に合格し
東京六大学野球編はスタートする。
その大学野球でも、新たなライバル達が次々と甲子園の前に立ちはだかる。

慶応大学からは、「神宮球場の申し子」と呼ばれ、必殺打法「腹切り打法」でホームランを量産する神宮響
魔球「陰陽球」を操る早稲田大学のピッチャー鬼塚幽次郎、そして同じく早大には中学の時からの永遠のライバル
「七色の変化球」を持つ男、池畑三四郎が入り乱れて熱い試合が繰り広げられていく。

野球漫画は数多くあるが、大学野球を題材にした漫画は比較的少ない中で
それを、しっかりと書ききった点は素直に評価できるが、熱過ぎた高校野球編と比較すると
綺麗にまとまってしまい、全体的にトーンダウンした感は否めない。

それだけ、高校野球編がハチャメチャで、めがっさ熱かった証拠でもあるのだが。


そうこうしているうちに、東京六大学野球編は
祖父に強制的に大学を退学させられることによって唐突に終わりを告げる。

その後に念願だった阪神タイガースへの入団を果たすも、同期入団の小野田信長には先を越され
中日ドラゴンズの風見天神丸の必殺「バック打法」には、自信とともに打ち砕かれる。

さらには、南海ホークスとのオープン戦では
代打の切り札として、『あぶさん』こと景浦安武に逆転サヨナラホームランを打たれ、プロの洗礼を浴びる事になる。

このように、阪神タイガース入団後も決して順風満帆ではなかったプロ野球編1年目の途中で
『男どアホウ甲子園』の連載は終了となる。


藤村甲子園が、この世に生を受けてから、阪神タイガーズへ入団するまでの壮絶なストーリーを
単行本にして合計28冊に渡って書き上げた、とにかく男臭くて泥臭い作品。

作画もそうだが、ストーリー展開、表現の古くさは、どうしても感じてしまうが
それら全てを打ち砕くのが、藤村甲子園の剛速球なのである。

途中で中弛みする事なく、テンポ良くサクサクと話が進んでいき
個性的過ぎるキャラクター達も目白押しで、最後まで飽きる事なく読み進められる傑作です。お勧め♪


そして、この『男どアホウ甲子園』を堪能した後は
多くのキャラクターが再登場し、甲子園の双子の弟、藤村球二・球三も登場する続編『一球さん』
さらには、クロスオーバー作品『大甲子園』へも手を伸ばす事を激しく推奨します(≧▽≦)

ちなみに、『一球さん』では語られませんが、『大甲子園』の作中にて、藤村甲子園は
阪神で1年目32勝、2年目33勝をあげるが、3年目の開幕戦の第一球に165kmの剛速球を投げ
これを最後に、太く短くそして雄々しい選手生命を終えたと語られています。


だが、しかしっ!!


そこから数十年の時を経て、現在もチャンピオンで連載中の『ドカベン ドリームトーナメント編』にて
阪神タイガースの選手として、豆タンや東海の竜、小野田信長と共に再登場し
山田太郎や岩鬼らと激突してるってんだから、高まる鼓動が抑えられない。


щ(゜ロ゜щ) 続きはよ!!





今日もどこかの球場で響き渡る掛け声がある・・・



「いくでぇ、豆タン!!」


「はいな、あんさん!!」





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